大事件

2004年3月4日 通常
全人類を二分して考えた場合、私は真に偶然と呼べるできごとと遭遇する率が高いほうに分類されると認識している。
と、オカルト寄りな発言から書きはじめてみたり。

本日、私、心が弱いのか強いのか判別つかず、また端的に言えば、動揺しております。
以下、その状態の理由と説明。そんな日記。

今日は昼過ぎから初対面の編集と営業と一緒に、クライアントとの打ち合わせ予定。
慣れない土地なので念を入れて早めに出発し、待ち合わせ時刻より30分早く予定地に着いた。
地下鉄駅から地上へでるため、エスカレーターに乗る。それなりに人はいるが、ラッシュ時ほどではなく、ゆっくり移動。
私の二段前には20代後半〜30代前半のサラリーマンとおぼしき男性が乗っている。そしてその一段前にはまた同年代程度であろう女性。前後にはあまり人はおらず、私の後方5m程度後ろに、人がいたかいないか。
エスカレーターの高低の問題で、私の目線は、前の男性の背中〜腰あたりにあった。
ピカピカ。
おや?
男性のおかしな動きに気づいた。右腕を少し前下へ持っていき、指を動かす。するとなにかが七色の光を放つ。
……これは、携帯のカメラで……
回転の遅い私の脳が動くのに、そう時間はかからなかった。あまりにも真実がわかりやすかったからだ。
二度、三度と同じ動きを繰り返す男性。
もしかして、この二人は恋人や愛人やその他肉体関係があって、プレイの一環、はたまたAVの撮影の一部なのかも。
そう思って様子を見ているうちにエスカレーターが地下1階に到着。踊り場を経て地上へ繋がるエスカレーターに乗り換える。その間、様子を見ていたが、二人が知人と思える行動はなにひとつなかった。
乗り換えたエスカレーターでも、男性は同じ行動を数度繰り返す。
これはアレだ。
エスカレーターが地上に着き、三々五々と散る前に、私は男性の腕を掴んで「あなたちょっと待ってください」と言っていた。
被害者の女性が、なにかあったのかという顔で後ろを向いたので「この人今、あなたのスカートの中を盗撮していました」と言って足止め。
女性は最初、きょとんとして、それから少しパニックになっていた。
「なに言ってんの?そんなことしてない」と、男性は言った。私もパニックにはパニックだったので、自分の勘違いかもと思うが、ここで逃がしてはいけないと本能が警鐘。今思えば、そのときの男性の態度は明らかにうろたえていた。
腕を掴んだまま「私見ましたよ」と言うと、被害者女性が「そこに交番あるんで、行きましょう」と言う。自分はやっていない、仕事があるのに困ると言い張る男性。ではなぜあの場で携帯がピカピカ光ってたんですかと聞けば、ちょうど着信があったんだと言う。被害女性がパニック状態のまま「じゃあ着信履歴見せてください」と言う。素直に見せる男性。しかし、最後の履歴は一時間前。被害女性に「この人に携帯いじらせたらデータ消されるかもしれないからやめたほうが良いですよ」と言う。尋常でないムードを察した通りがかりのおじさんが、交番の人を呼んでくるから、といって横断歩道を渡って行ってくれた。
それから男性は片手をコートのポケットに入れたので「その手だしてください。画像を消されるかもしれないんで」と注意。思ったより素直に手をだす男性。そして「いいですよ。警察の人に見せればいいんですから」と言う。しまった。これはもう、消されてしまったかと不安になった。
その上「腕、放してもらえませんか?逃げたりしないんで」と堂々と言い放つ。私は「あなたのことなんて信用できないから離せません。捕まえるほうだって怖いんですよ」と言った。
事実、私はガタガタ震えていたし、いくら強く掴んでいたって、男性がその気になって振り払えば、簡単に逃走される力しかない。
警官が二人きて、男性に「やったんですか?」と聞いたら「はい。やりました」
今の今まで強く否定していた言葉をあっさり覆す男性に、目を丸くする被害女性。「あなた指輪してるじゃないですか!結婚してるのに恥ずかしくないんですか!」と悲鳴を上げる。この言葉で私は、オンナって生物はなぜそんな部分に目が行くのだろう、と、少し冷静になった。
横断歩道を渡り、交番へ。男性はもう投げやりになり、うすら笑いさえ浮かべて「画像入ってますから。見ればわかります」と。何時頃だかわかりますかと警官に聞かれたので、被害女性が犯人である男性に着信履歴を見せさせた際の12:24という時刻を伝える。
ショックで涙目の被害女性と、犯人を交番から警察署へ移送するためにパトカーを2台呼ぶ。
私も行かなければならないとなかば覚悟したが、警官に「30分後から仕事があるんですが、私も行かないとまずいですか?」と聞いたら、とりあえずいなくても大丈夫だけれど、事情聴取のために連絡先等を教えて欲しいと言われる。住所と携帯と本名を伝える。
被害女性は恋人と待ち合わせしていたようで、電話で事情を連絡していた。結婚式場も多い場所だったし、もしかすると二人で式場の見学を予定していたのかもしれない。そう考えると、先刻のしらける言葉がでてきた理由が合致するような気がする。
若めの警官が私の住所等を書いた紙を、不用心に犯人の目線の届くところで持っているので、上役と思える年配の警官に、見えないようにしてくださいと頼む。すぐに若い警官に注意。
まず犯人が護送される。続いてもう一台が到着する前に、被害女性も電話を終え、私に礼を言った。「これから大変だと思いますけど、落ち着いて頑張ってくださいね」と返す。

待ち合わせまでの二十分程度、漠然と立っている気持ちにもなれなかったので、コーヒーを飲んで一服。まだ身体に現実味が戻ってこず、半貧血状態。

その後、仕事相手と無事に合流し、今、大変だったんですよと言いながらも仕事。クライアントがまた困ったちゃんでひどく時間がかかった。
打ち合わせ中に数回、警官から電話がかかってきた。後日もっと時間をかけて質問されるだろうが、仕事中だと伝えたので、当面、被害女性の言い分と犯人の言い分の正否を確認するだけに留めてもらえた。ひとつは「犯人は逃げようとしましたか?」という質問。「暴力なんかはふるいませんでしたが、仕事があると言って立ち去ろうとはしました」と言ったら、どうやら被害女性も同じことを言っていたようで「あぁ、同じだね」と言われた。

遅くなった帰り道、自分への頑張った賞として、大戸屋でえびかけ御飯とビール。自宅までこの、てんやわんやの気持ちをひきずって帰りたくなかった。子に当たりそうな自分の気配も感じた。
良いことをした、やってやった、という気持ちはあるにはあるが、怖かったインパクトのほうが大きくて、なぜかへこみ気味。ひどいストレス。
犯人の家族が可哀想という気持ちはあるにはあるが、だからといって捕まえないのが良いかといえばそれは問題のすりかえであるし、わずかな「可哀想」でしかない。
自画自賛だが、今回の私の行動は満点だったと思う。現場に立ち合ったときに、ここまで適切なやりとりをできたことが不思議なほど。
幸運だったのは、犯人が女性に少し掴まれた程度で身じろぎできなくなる小心者だったことで、これで私が調子に乗って、悪い人はどんどん捕まえちゃうわよぅなどと考えたら、早々に痛い目に遭うだろう。

それなのに暗い気分の自分が不思議。
その他続きはのちほど。

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